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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)3787号 判決

原告

福田泰彦

被告

井田正三

主文

被告は、原告に対し金一、〇〇四、七五七円及び内金九四四、七五七円に対する昭和四四年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金二、〇八〇、四七七円及び内金一、九八〇、四七七円に対する昭和四四年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は次の交通事故により後記のとおりの傷害を受けた。

とき 昭和四二年六月三〇日午後四時三〇分頃

ところ 大阪府泉南郡南海町新町三三〇番地先路上

事故車 普通貨物自動車(泉四な第七七二五号)訴外安藤保運転

被害車 原告運転自動車

事故の態様 被害車が左折しようとして一旦停車したところへ事故車が追突。

二、被告は、事故車の所有者であり、訴外運転手はその被傭人であり、事故車を運転中右事故を惹起したから、被告は自動車損害賠償保障法第三条により原告が右事故により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三、原告は、右事故により頸部捻挫の傷害を受け、昭和四二年六月三〇日大阪府立病院に入院、治療を受け、同年七月二日退院

同月三日から九月四日まで大阪労災病院通院

九月四日から一〇月八日まで同病院に入院

一〇月九日から現在まで同病院に通院

各治療を受けた。なお右のうち七月三日から昭和四三年一月三一日までの間(二一三日間)で、診療実日数は入院三五日、通院一五日である。そして昭和四三年五月三一日現在頭痛、めまい等の自覚症状を残すとの診断がなされている。

このため原告は、次のとおり支出を余儀なくされ、得べかりし利益を失い、もしくは精神的肉体的苦痛を味わわされ、以て同額もしくは相当額の損害を蒙つた。

(一)  治療費 (自昭和四二年七月三日至昭和四三年一月三一日)八八、三九七円

(二)  得べかりし利益の喪失 一、一二〇、〇八〇円

原告は昭和四二年一月一日から四月一〇日まで旭東電気株式会社に勤務し、一ケ月平均四六、六七〇円(内税等二、二七〇円)の給与を得ていたが、五月二四日大阪ナショナル岸和田販売株式会社に勤務することになつた直後本件交通事故に遭遇した。そして原告は少くとも旭東電気株式会社で得ていた程度の給与は得られる見込であつたが、その後右大阪ナショナル会社に昭和四三年一月九日出社し、同一一日以後欠勤し更にこれをも退職し、収入を得られないので、取敢えず昭和四二年七月一日から昭和四四年六月三〇日までの二年間分を請求する。

四六、六七〇×二四=一、一二〇、〇八〇円

(三)  慰藉料 一〇〇万円

前掲各事実に照せば、原告の精神的肉体的苦痛を癒するには金一〇〇万円の慰藉料が相当である。

(四)  弁護士費用 一〇万円

被告は全く誠意を示さない(後記参照)ため、止むなく本訴の提起遂行を弁護士に委任し、その費用として右額を要する。

以上合計二、三〇八、四七七円

四、しかるに被告は右のうち二八、〇〇〇円を支払つたのみでその余を全く支払わず、この他原告は自動車損害賠償責任保険金として金二〇万円の支払を受けているので、これらを控除した残額二、〇八〇、四七七円及びこの内弁護士費用を除く一、九八〇、四七七円に対する不法行為後である昭和四四年七月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

と述べた。

被告は、適式の呼出にもかかわらず本件口頭弁論期日に出頭せず、且答弁書その他の準備書面を提出しないので、原告主張事実を自白したものと看做す。

右事実によれば、原告の本訴請求は後記棄却すべき部分を除きすべて理由があるからこれを認容し、右請求中、

(二)の得べかりし利益の喪失額については、次の部分は失当として棄却すべきである。即ち、右事実を綜合すれば、通院実日数も僅少であり、殊に昭和四三年一月には一時再出勤し始めたことも窺われ、後遺症も若干の自覚症状に止まり、且同時期以後における診療の実態すらも全く不明確の状態にあるなど、その病状は比較的軽徴であるものと認めるべきであり、なお一般に本症病が多分に心因性、神経精神作用の影響を受け易い性質のものであることを併せ考えれば、当事者間に争いのないものと看做すべき全事実を綜合しても、原告の主張するように二年間の長期に亘り完全に休業を要するものとは到底認め難く、全休期間としては六ケ月間とすることが相当であり、その後の一年六ケ月の期間については給与の五パーセント相当額の範囲内についてこれを失つたものと認めることが相当であること(この場合遅延損害金の起算日を右期間満了の翌日としているので、この間の中間利息相当分を控除する必要はない。)また平均給与中に税等を含むものを以て計算の基礎とすることは、これらが実質上経費と同視することが相当であつて、算入することを許されないものと解すべきであるから、右の計算に当つてはこれを控除するものとすること(蓋しこう解しなければ交通事故の被害者は従前得た以上のものを得ることとなり不当であるからである)。これに対し損害賠償額に所得税が課されないのは被害者救済のため政策的見地から定められているのであるから。計算に当つても税等を控除する必要はないとの見解がみられるが、被害者救済は、迅速、完全に従来得ていたものと同額(通常合理的に推測されるもの)の填補をはかることを以て、必要且十分というべきであつて、それ以上のものを与えてこれを保護することは要しないものであり、殊に被害者救済の名の下に、本来国家等に帰せしめられるべき金額部分を、被害者に得しめるため加害者に負担させなければならない理由は全くなく、政策上の理由の下に損害賠償額として支出せしめるが如き論は明らかに不当といわなければならない。)、以上の点を基礎として、原告の得べかりし利益の喪失額を計算すれば、

(四四、四〇〇×六)+(四四、四〇〇×〇・〇五×一八)=三〇六、三六〇円

となるものであつて、右額を上廻る部分については失当である。

(三)の慰藉料は、前掲各事実を綜合すれば、

金五五万円

を以て相当とするものといわなければならないから、右を上廻る部分は前同様棄却すべきであり、

(四)の弁護士費用のうち、被告に負担せしめるべき部分は、上記経緯、認容額、請求額その他諸般の事情に照し、

金六万円

とすることが相当であるから、これを越える部分は前同様棄却することとする。(認容合計一、〇〇四、七五七円)よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し、なお仮執行の宣言については相当でないものと認めてこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本嘉弘)

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